「…ん?」
仮にも“坊ちゃま”と呼ばれてる人に「ん?」と言ってしまった私。
でもそこにいたのは、なんだか見覚えのある顔。。
扉を開けると、とても広い部屋。
その部屋をまっすぐ行くと大きな窓があり、その窓の手前にこれまた大きな机がある。
そこの椅子に座っている男の人を、私は何故か見覚えがあるのだ。
あれ?
どこだ?
人違い??
「あべいおり…18歳?」
ん?やっぱり声も聞き覚えがあるぞ……
どこだどこだ
頭の中を必死で回転させる。
「おい。ボーッとすんな」
ボーッとすんな
ボーッとすんな……
ボーッとす…………
頭の中でエコーのように響く。
私はこのフレーズを知っている。
一昨日のバイト帰りを思い出した。
「あっ!!あの時の…!!」
「飯田!」
私の言葉を遮るように、目の前の男の人が叫んだ。
「ちょっとふたりっきりにしてくれる?」
「はい。承知いたしました」
そう言って、スーツの男性は出て行った。
え………
何故ふたりっきり………
「やっぱあん時の奴か」
「へ…?」
「18歳ねぇ〜…一昨日は制服着てなかったか?あれはコスプレか?」
げぇぇぇぇ!!
やっぱあの時の人だし、向こうも覚えてるー!!!
「えっと…何の事だか……」
「ふーん。じゃ、あんたの学校の校長に相談しようか」
「はい…?」
「おたくの生徒さんは年齢をごまかして働こうとしてますよー。どうせ時給に目が眩んだんだろうけど、危ない遊びとかしてるんじゃないですかー?ってな」
は…?
なんなのコイツ……
「はぁー…面接に来る奴らはみんな金に目が眩んでてキモイわ」
なんでこんなに言われなきゃいけないの?
「年ごまかしてまで来たんだから、交通費ぐらい出してやるよ。お友達と遊ぶ金は他で稼ぐんだな」
そう言って1万円を私の前に落とした。
「ほら、拾えよ」
信じられない……
私はその1万円を拾って、そいつに渡した。
「お金はこんな風に扱っちゃだめです。バチが当たります」
むっちゃムカつく!!
ムカつき過ぎて手が震えるし涙が出る。
「確かに…時給に目が眩んだけど……遊ぶ為とかじゃない。もっと必死なんだから!!」
「この…1万円を稼ぐ為には……どれだけ大変だと思ってんの…!?」
悔しい!!悔しい!!!
「なんで…あんたなんかにバカにされなきゃいけないのよ…」
「…こんの……大バカケンカ野郎ーーー!!!!」
私はそう叫んで、部屋を飛び出した。
アイツの顔は全く見ていない。
「…坊ちゃま……」
「…やべー……久々面白い奴に出会ったかも。なぁ飯田、【阿部伊織】について早急に調べろ。あと、コイツ“合格”な」
「承知いたしました」
「阿部…伊織ねぇ…」
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それから向かったバイト先ではほぼ廃人になってて、次の日の学校でも廃人のままの私。
「あのさ、いつまでそのキャラでいくわけ?」
「だって…今日で今月が終わるんだよ……私、明日から無職だよ」
「やっぱ時給良いものには裏があるんだよ。そんな性格悪い奴、働いたって苦労するだけだよ!?」
「そう…だよね」
私、間違ってなんかないよね?
あんなに腹が立ったのはいつぶりだろう。
私自身、ううん、私の大事な家族をバカにされた気持ちになってすごく悔しかったし悲しかった。
「私も一緒にバイト探すよ」
「ありがとう!みっちゃん!」
あんなキモイ金持ちケンカ野郎の事は忘れよう。
今後会う事はないんだから。
終礼が終わり、まず家までダッシュ。
「みっちゃん、またねー!」
「バイバーイ」
今日の晩ご飯は何が良いかな?
卵がまだ余ってたから、冷やご飯使ってオムライスとか…
そんな事を考えながら校門を出ると、黒い大きな車が停まっていた。
「阿部様ですね?」
あっ、この人は確か昨日の!
「いえ、違います」
なんで学校がバレてるの!?
てか、私が高校生ってバレてるやないか!!
しれっと嘘をついて、その場から逃げようとする。
「手荒な真似、申し訳ございません」
もうひとりスーツの男性が出てきて、私は2人に腕を掴まれ無理矢理車に乗せられた。
ちょっと…!!
「誘拐だーーー!!!!!」
私は車の中で思いっきり叫んだ。
「阿部様、うるさいです」
「普通にツッこむな!!」
なに、この状況!!!
私、なにされるの!?