〜ジャカジャカ♪

なんだ、このセンスの悪い音楽は!?


「ん〜〜!!」

嫌な音楽で目が覚めた。


音の発信源はキモ野郎からもらったスマホだった。



「なんなのよ、これ」

急いでアラームを止める。


「まだ5時じゃん」

もう一度布団に入ろうとすると、また趣味の悪い音楽が流れた。



なんやねん!!


私はスマホのアラーム設定を見る。



「うわ…」


朝5時から1分おきに5時15分まで設定されている。



アイツ、ほんまなんなん。






コンコンコンッ


「伊織様、おはようございます。開けてよろしいでしょうか?」


「はっはい!」


女の人の声が聞こえた。
たぶんお手伝いさんだと思う。




「失礼いたします。坊っちゃまの朝食のご準備をお手伝いいただけますでしょうか?」


「は…い……?」



私は急いで支度をして、キッチンへ向かった。



広いキッチン。
どこからどう手をつけたらいいのかわからないほど。



「坊っちゃまは日頃朝食を摂らないのですが、本日は伊織様に作っていただきたいと…」


あのキモ野郎が?

てか、どこまでも偉そうだな。



【俺専属のメイドさん?】

昨日の言葉が頭をよぎる。



そうか!
だから、朝食を頼んできたんだ。



アイツ〜!


「あの…坊っちゃまの好きな食べ物とかご存知ですか?」


坊っちゃま…言い慣れないな。



「お恥ずかしながらあまり詳しくなく…あっでも以前奥様がいらっしゃった頃はよく肉じゃがを食べておいででした。それはとても美味しそうに」


奥様がいた頃…?


「そうですか」


仕方ない。



「材料はどこにありますか?あるもので作ります」


こうなったら朝食を作ってやろうじゃない!






——————————


「起きてください」

「ん…」

なんか聞こえる。


「起きてくださーい」


聞き覚えがある声。



「起きろーー!!!」


ガバッ!!

耳元で大声が聞こえて、急いで起きる。



「なんだ、お前か」

「早く起きてください。朝食が冷めます」

「もっと普通に起こせねーのかよ」

「普通に起こして起きなかったんですよ」

「はぁー…朝からだりぃ」


はぁぁ!!??
朝からムカつかせる天才だな、このキモ野郎は。




寝起きが悪いのか、まだボーッとしているキモ野郎の前に朝食を並べる。




「伊織さん、こちらも坊っちゃまに」


「伊織“さん”?」


「あっ厚かましく大変申し訳ございません」


「私がお願いしたんです」

お手伝いさんが私を“さん”で呼んだことに何かひっかかった様子のキモ野郎。



「私も家政婦として雇ってもらってるのに、様を付けてもらうのはおかしいですよね?呼び捨てにして欲しいぐらい」


「呼び捨てだなんて伊織さん…!」


「…ふーん。いいんじゃね」


何か言い返してくるかと思ったけど、意外と受け入れてくれた。



「いただきます」

あっ、肉じゃが食べた。
なんだかちょっぴり緊張する。



「うま…」


今なんと!?

「えっ!美味しい!?」


「あー朝からうるせー」


嬉しい!


「えへへ!よかったぁ!」


「お前ウザイ。あっち行ってろ」


キモ野郎の顔が少し赤く見えたのは気のせいかな?




「伊織さん、お料理とても上手ですね」

「牧さんがたくさん教えてくれたからです」

家ではほとんど私が料理してたしなぁ。
でも、簡単なものばかりで凝ったものは苦手だったから、ちょっと緊張していた。


「牧さん、これからも色々教えてください」

「もちろんでございます」


お手伝いさんの牧さんと仲良くなれた気がして、私はテンションが上がっていた。



「おいメイド。喉乾いた」

「はーーい!」


水ぐらい自分で入れろよー!



「坊っちゃまがあんな風に朝食を食べるだなんて…」

「感激ですね」

私たちのやり取りを牧さんと飯田さんが見ていたなんて、知る由もなく。