「そう、アンディは十二歳の頃に旅立ったから、もう十五歳になっているんだなぁ……月日が流れるのは早いよ」

 顎に手を置いて目を閉じたグリシャがうなずく。

 兄のアンディは、アシュリンが七歳の頃、本を持って旅立ったことを覚えている。アンディからはたまに手紙が届き、どんな旅をしているのかを教えてくれた。

「おねーちゃんもいっちゃうの……?」

 しょんぼりと眉を下げて右手の人差し指を口元に添えるのは、妹のエレノアだ。彼女は五歳で、アンディが旅立ったときはまだたったの二歳。

 薄っすらと、アンディのことは記憶にあるらしく、三年前はアシュリンもどこかに行くのではないかとあとを追いかけてきたことを思い出し、彼女はエレノアに近付いてそっとしゃがみ込む。

「行ってほしくない?」
「おねーちゃんいないの、エレノアさびしい……」

 くすんと泣き出してしまったエレノアの手を、優しく包み込むように触れると、彼女を安心させるようににっこりと笑ってみせた。

「お姉ちゃんも、エレノアや家族と離れちゃうのはさびしいな」
「じゃあ……」
「でも、行かなきゃいけないの」

 本と出会ってから、アシュリンの胸の奥で『世界を見たい』と気持ちが大きくなっていく。――いつか、こんな日が来ることを、予感していた気がする。