アシュリンが一歩前に出ると、母であるホイットニーが「……本?」とじっと見つめてきた。本はにゅるんとアシュリンの腕から抜け出し、ぷかぷかと浮いている。

『はじめまして! フォーサイス家のみなさま! 真っ白な絵本です!』
「ずいぶん元気な絵本に選ばれたんだなぁ」

 感心したように父のグリシャが言葉をこぼすと、本はパタパタとページを開いては閉じる、を繰り返していた。

「ねぇ、この本なぁに?」
「これはねぇ、アシュリンだけの本なのよ。まだなにも(えが)かれていない、アシュリンだけの物語をきざむ絵本」
「わたしだけの……物語?」

 キョトンとした表情を浮かべるアシュリンに、トレッサがぽんと彼女の頭に手を乗せてくしゃりとなでる。

「フォーサイス家ではね、本に選ばれたものは旅をする(おきて)なのさ」
「おきて?」
「そうさね。おばあちゃんも、グリシャも旅に出て、『宝物』を手に入れたんだよ。グリシャ、そうだろう?」

 トレッサとアシュリンの視線がグリシャに向かう。その視線を受けて、彼は大きくうなずいた。

「たからもの、ってどんなもの?」
「それは秘密さね。アシュリンが見つけないといけないものだから」
「えー」

 トレッサとグリシャが手に入れた『宝物』が気になるアシュリンだったが、二人は話そうとはしなかった。そして、三年前に家から旅立った兄のアンディのことを思い出し、ぽんと手を叩く。

「お兄ちゃんも本に選ばれたのね!」