「ど、どうしてわたしの名前がっ? それになんで『ごしゅじんさま』?」
「あー、うん。説明するから、家族のもとにいこうか。アシュリンっていま、何歳だっけ?」
「ノワール忘れちゃったの!? 十歳だよ!」

 生まれたときから一緒にいるノワールに、自分の年齢を聞かれて目を見開くアシュリン。しょんぼりと肩を落としながら答えると、ノワールは「そっかぁ。十歳かぁ」とつぶやくのを聞いて、手に取った本をぎゅっと抱きしめた。

「それって大事なことなの?」
「アシュリンはちょっとはやいにゃぁー」
「はやい?」
「うん。ほら、家族のところ、いくにゃあ」

 ぴょんとアシュリンの肩から床に着地して、ノワールが歩き出す。それを追うようにアシュリンは歩き出し、地下室から家族のもとへ向かう。

(あ、窓拭きさぼっちゃった!)

 両親に怒られるかな、と考えながらも、意識はずっと抱きしめている本にあった。

 どうして自分のことを『ご主人さま』と呼ぶのか、どうして触れたとたんアシュリンの名が本に浮かび上がったのか、謎ばかり。

「アシュリン、どこに行っていたんだい? おや、それは……」

 地下室の階段から廊下へ出ると、アシュリンを探していたのか廊下を歩いていた祖母、トレッサ・フォーサイスに声をかけられ、彼女の視線が本に(そそ)がれる。トレッサは「あれまぁ」と目を丸くして、パチンと指を鳴らした。