「し、神殿都市では普通のことなのっ?」

 顔を真っ赤に染めたまま、アシュリンがラルフにたずねる。

 彼は彼女の手を離して、(あご)に手をかけて「うーん」と首をかしげた。

「他の人たちがしていることを、真似してみただけ。いやだった?」

 ぶんぶんと勢い(いきお)よく首を横に振るのを見て、ラルフはほっとしたように息を吐いた。その様子を見ていたルプトゥムがくつくつと喉を鳴らして笑い、ノワールはしっぽでテーブルを叩いている。

「アシュリンはどこが目的地なの?」
「お母さんの生まれた街、リーリクルよ。あっちのおじいちゃんとおばあちゃんに会うのが、目標なの」

 母のホイットニーの故郷(こきょう)は、湖と百合の花が有名な街だ。一緒に住んでいる祖父母よりも会う頻度(ひんど)は少ないので、そこを目的地にしている。そのことはリーリクルの祖父母も知っていて……むしろ歓迎すると言われていた。

 フォーサイス家の家族と手紙のやりとりをして決めたことなので、旅の途中で目的地を決めたのだ。ラルフは感心したようにアシュリンたちをながめる。

「そういう決め方もあるんだね」
「ラルフは目的地がないって言っていたけど、旅の終わりはどうするつもりだったの?」
「テキトーで良いかなって。ぼくの旅の目的は『世界をこの目で見る』ことだから」

 くすっと口角を上げるのを見て、アシュリンは「へぇー!」と声を上げた。

 旅の目的はそれぞれ違う。だからこそ、こうして話していて楽しいのだろうなと、思わず頬がゆるんでしまう。