「……いたくない?」
「……だいじょうぶ……」
「きっと、タルコットはきみの優しさが嬉しかったんだろうね」
「やさしさ……?」

 ラルフはそっと立ち上がって、アシュリンに近付くと彼女の頭をぽんぽんと撫でた。

「一緒に滑り台の天辺までのぼって、一緒に滑り台で遊んだんでしょ? 人間にやさしくされて、嬉しかったんだと思うよ」
「……わたし、普通だったよ?」
「うん、その『普通』で救われる人もいるってこと」

 ラルフの言葉はアシュリンには少しむずかしかった。どうして自分が『普通』でいることで誰かが救われるんだろう? と思考を働かせたが、答えは出なかった。代わりに「よくわかんない」と小声でつぶやく。

「アシュリンは、そのままの子でいればいいって話」
「むぅ。……でも、そうだね。わたしはわたしだもん」
「そうそう、深く考えずに、等身大のきみでいればいいよ」

 頭を撫でていた手が離れ、アシュリンは名残惜しそうに顔を上げて、その手を視線で追った。

「……ラルフは?」
「ぼく? 精霊族って割と神殿都市に住んでいるよ。空気が清らかで住みやすいんだって」
「へぇー! 神殿都市って行ったことないから、想像できないや」
「にぎやかなところだよ。ぼくの両親も含めてね」

 肩をすくめるラルフを見て、アシュリンは目を瞬かせた。ラルフはゆっくりと息を吐いて、自分の荷物を掴みルプトゥムに声をかける。

「それじゃ、ぼくはそろそろ行くよ」
「あ、まって! ラルフはどこまで行く予定なの?」
「気のままにどこへでも」

 てっきり次に向かう場所を答えてくれるのかも思ったら、まったく予想しなかった言葉が耳に入り、アシュリンは「え?」と聞き返してしまった。