「……おなかすいたなぁ」
『眠気に負けて、なにも食べずに寝てしまったようですからねぇ』

 ぐぅーっと鳴るお腹を手のひらで押さえながら、アシュリンはカーテンを開ける。まぶしい日差しに目を細めて、ぐーんと伸びをしてからノワールと本を振り返った。

「ラルフとルプトゥム、起きたかな? 一緒にご飯食べられるかな?」
「行ってみればわかるにゃ」
「そうだね、行こう!」

 リュックを背負い、ノワールに手を差し伸べると器用にアシュリンの手から肩まで移動した。本もしっかりと持って、もう一度パチンと指を鳴らし、小屋の中をきれいにそうじしてから外に出る。

「魔法でそうじするとあっという間だよね」
「自分の手ではもうする気、ないにゃ?」
「うーん、ひまがあれば……? ……ちがうかな、心に余裕があれば、やるかも?」

 旅立ったばかりでまだ心に余裕があるとは、言えない。

 だから、もう少し旅に慣れてから、とアシュリンは笑った。

 ラルフが選んだ小屋に歩いていると、彼はもうすでに起きていたようでルプトゥムと一緒に外で誰かを待っているようだった。アシュリンに気付くと、「おーい」と大きく手を振る。

 どうやら自分のことを待っていたらしいと気付き、アシュリンはパタパタと足音を立てて彼らに近付いた。

「おはよう、ラルフ、ルプトゥム。いい朝ね!」
「おはよう、アシュリン、ノワール、……本?」
『なぜ疑問系なのですか! 立派な本ですよ!』
「いや、本ならタイトルがあるのかと……」

 じっと本を見つめるが、本の表紙にはアシュリンの名前があるだけだ。そういえばタイトルをつけていないということに気付き、「タイトルほしい?」とたずねる。

『私のタイトルはあとまわしにしてください!』
「いいの?」
『はい! だってまだ旅の途中ですから!』