素直に口を開けるアシュリンとノワール。

 タルコットは人差し指を立てると、ぷかぷかと水の球体(きゅうたい)を作り出した。

 その球体を彼女たちの口の中に入れる。こくりと飲み込むと、カラカラだったノドがすぐにうるおい、声を出しやすくなりアシュリンは「ありがとう!」と頭を下げる。

「こちらこそ、ありがとうございました! あ、そうだ。アシュリンさん、ちょっと持ち上げてもらっていいですか?」
「こう?」

 ひょいとタルコットを持ち上げ、自分の手のひらに乗せる。アシュリンの額に届くくらい高く上げると、タルコットはそっとアシュリンの額に唇を押し当てた。

「あなたに水の加護(かご)がありますように」

 ちゅっと軽い音を立てて額から唇を離すタルコット。

「……水の精霊(せいれい)だったのね!」
「はい。遊んでくれて、ありがとうございました! ボクはちょっと休んでから、また自分の精霊術を求めて旅に出ます!」
「うん、お互い、旅を楽しもうね!」

 タルコットはにっこりと笑って「はい!」と元気よく返事をしてから、空気に馴染むように姿を薄くしていく。

 サァ……とやわらかい風が吹いて、アシュリンの頬を撫でる。手のひらにいたタルコットが姿を消したことに目を丸くしたが、すぐに「バイバイ!」と言ってから、ノワールと本を見た。

「精霊族って、自然に溶け込めるんだね」
「精霊だからね」
『うーん、旅をすることで得られる友情物語、最高ですね!』