「あ、わたしのことはアシュリンって呼んでね」
「じゃあ、ぼくのこともラルフって呼んでいいよ」
「わかった。ねえ、ラルフはどうして歩いているの?」

 気になってたずねてみると、ラルフは空を見上げてまぶしそうに目元を細める。

「空の道のほうが混んでいそうだし、自分の足で歩くのって、好きなんだよね」

 一歩一歩、地面を踏みしめるように歩くラルフに、アシュリンは首をかしげた。

 この世界の人たちは、魔法が使える。

 そしてほとんどの人は、ほうきにまたがって空の道を移動手段として使う。とはいえ空の道は混みやすいので、わざと陸路(りくろ)を歩く人もいるらしい。

 アシュリンはフォーサイス家の教育方針で陸路を歩いているが、ラルフの家も同じなのだろうかと考え込んだ。

「空を飛ぶのは好きじゃない?」
「そんなことはないよ。でも、陸路のほうが『旅してるぞー!』って気になるだけ」

 ひらひらと手を振って笑うラルフに、「わかるかも」とアシュリンは空を見上げる。

 ほうきで空を飛ぶのは楽しいけれど、自由自在に飛べるかと言えばそうではないから。

「ぶつかったらあぶないしね」
「混んでいるときは特にね。陸路のほうが早いときもあるし……でも、空を飛ぶあの感覚も好きだよ」

 視線を彼に戻すと人懐っこい笑顔を向けられて、アシュリンの鼓動がトクンと跳ねた。

「まぁ、どこを選ぶかは自由だけど」

 ラルフはぽんぽんとルプトゥムの背中を撫でながら歩く。その姿を見ていたアシュリンはじっとルプトゥムを見つめる。

 じーっと見つめられて、ルプトゥムは諦めたように息を吐いた。