「うん、ピカピカ!」
「ピカピカだねー」

 ノワールがぐーっと伸びて、眠そうにアシュリンの言葉を繰り返した。次の窓を拭こうと雑巾をバケツに入れて移動しようとした瞬間(しゅんかん)、ぴたりと足を止める。

「どうしたの?」
「なんだか……誰かに呼ばれた気がして。気のせいかなぁ?」

 辺りをキョロキョロと見渡して、アシュリンは首をかしげた。確かに、なにかの声が聞こえたような気がしたのだが……と。

『――……』
「やっぱり呼ばれてる!」
「どこから聞こえるのさ、それは」
「え? ええっと……ノワール、ついてきてくれる?」
「しょうがないにゃぁ……」

 ノワールは呆れたようにアシュリンを見て、ぺろぺろと右前足を()めた。それから首輪(くびわ)の鈴をちりんと鳴らしながら、先に地下室へ向かう。

 慌ててノワールを追いかけるアシュリン。窓辺にはぽつんとバケツだけが残った。

「まってよ、ノワール! 声が聞こえるのはわたしだよー?」

 そうだった、とばかりにノワールの足が止まる。ちょこんと座ってアシュリンを見上げるので、ひょいと抱き上げる。

 抱っこしたまま、アシュリンは声のしたほうへ足を進める。たどりついたのは、地下室へと続く階段。

 ごくりとつばを飲み込んで、アシュリンはゆっくりと地下室へ続く階段を下りていく。

 地下室は広くて、薄暗い。

「本当にここから聞こえたの?」
「うん、今でも呼ばれている気がするもん」
『その通り!』

 ビュンっと風を切る音とともに、なにかがアシュリンの目の前に飛び出してきた!