ちらりとノワールに視線を送ると、ノワールは首輪の鈴をちりんと鳴らしてうなずいた。それを見て、そっと犬のように見える使い魔に手を伸ばして、自分の魔力を注ぐ。すると、ふわっと使い魔の毛が揺れて、ゆっくりと立ち上がった。

 はむっと倒れている人のマントのフードを口でつかみ、ずるずると引きずっていく。

「……あの、だいじょうぶ、なの……?」

 街道から外れたところまで運ぶと、ぱっと口を離した。

 思わずついてきてしまったアシュリンは、眉を下げて使い魔にたずねる。

 使い魔はアシュリンに対して頭を下げた。

「助かった。ありがとう、お(じょう)さん。こいつ、どこでも寝るから困っていたんだ」
「ね、寝ているの……?」

 落ちているもの、から倒れているものと変化し、さらにただ眠っているものと知りアシュリンは頭の中でぐるぐると街道で寝るってどういうこと? や、もうちょっといけば休憩スペースがあることを知らなかったのかな? と考え込む。

「……ん……?」

 ぱちり、と倒れ……いや、寝ていた人が目を開けた。むくりと起きて、アシュリンと使い魔、そして本のことを見ると再び寝転んで目を閉じた。

「まって、まって、ねないで!」

 アシュリンはがしっと手をつかんで、寝るのを阻止しようとする。

 成功したのか再び目を開けてくれた。

「あのね、ここで寝ると風邪ひいちゃうから、もうちょっとがんばろう?」
「そうだそうだ。我も別のところで寝たいぞ!」