フェリシアの護衛を始めてから、フェリシアを襲うような輩には遭遇していない。フェリシアが危険な目に合うことがないのは嬉しいが、危険がないのなら護衛はもう必要ないのかもしれない。

「そろそろ終わりかな……」

 毎日フェリシアと過ごすのはとても楽しい。フェリシアに好かれていることはわかるし、自分もフェリシアのことが好きだ。今の生活はとても幸せだが、護衛が必要ないのなら、いつまでもここにいるわけにはいかない。ぼーっとしていると、扉を叩く音がして慌てて起き上がった。

「アラン様、終わりましたか?」
「は、はい……」
「中々お戻りにならないから心配しましたわ。」
「すみません……」

 フェリシアはアランをまっすぐ見つめている。アランは思わず目を逸らした。

「何をお考えになられてたのですか?」
「なんでもありませんよ。」
「私、アラン様のことはよく見てますのよ。何かお悩みがありますのよね?」

 アランは口をつぐんだ。護衛はいらないのではと言って、もういらないと言われてしまったら少し悲しい。

「私のことがお嫌いになられましたか?」
「とんでもないです。大好きです!」
「え!?」
「あ、あぁ!えっと……フェリシア様にはもう護衛はいらないのかなって思っていたんです。もう普通に生活できていらっしゃいますから。」
「それはアラン様がいてくださるからですわ。」
「そうでしょうか。」

 フェリシアはアランの隣に腰かけて顔を覗き込んだ。

「私の護衛が嫌になったのですか?」
「そんなことは決してありません。私でよければ、フェリシア様をずっとおそばでお守りしたいと思っております。」
「本当ですか?」
「はい。」

 フェリシアに至近距離で聞かれてアランは息が上がりそうだったが、自分の思いはちゃんと伝えようと、意を決してフェリシアの顔をまっすぐとらえた。

「ずっとそばにいてくださるのですか?」
「はい。」
「これからもずっと?」
「はい。」
「永遠に?」
「永遠?……は、はい。」
「お母様ー!」

 フェリシアが叫ぶと、どこからともなくフェリシアの母ソフィアがアランの部屋にやってきて、何も言わずに微笑みながらフェリシアに小さな箱を差し出した。