アランがフェリシアの護衛を始めてしばらく経ったある日、2人は並んで庭園を歩いていた。アランが来てから屋敷に人が押し寄せることはなくなったため、フェリシアは庭園を歩けるようになったのだ。

「外を自由に歩けるって素敵なことですわ。」

 今日もフェリシアはアランの右腕にしがみついているが、アランは何も思わなくなった。これが普通になってしまった。アランはフェリシアを見ると今だに息ができなくなることがあるけれど、フェリシアの美しさには慣れてきたと思っていた。

 しかし油断は大敵だ。庭園を歩くフェリシアは陽の光を浴びて花に囲まれている。まるで妖精のように美しくて愛らしい。アランはフェリシアをできるだけ見ないようにした。まともに見てしまっては気を失うかもしれない。

「お水をあげてみても良いかしら。」
「少しくらいなら良いのではありませんか?」
「そうね。ちょっとなら……」

 フェリシアはジョウロに水を入れて花に水をやり始めた。手元がおぼつかないが、それがまた信じられないくらい可愛い。アランはそんなフェリシアをぼーっと見つめてしまった。

「アラン様、少しくらい手伝ってくださってもいいのですよ?」
「すみません、フェリシア様が可愛くて見惚れてしまいました。ははは。」
「え……」

 可愛いと言われた気がする。いや絶対言われた。アランに可愛いと言われた!フェリシアはドキドキと胸が高鳴った。

「手伝いますね。」
「や、やっぱり私がやります!」
「でも大変そうじゃないですか。手伝いますよ。」
「いいんですっ、見ていてくださいませ!」
「やりますって……」

 水の入ったジョウロを取り合っていると、2人の手からジョウロが飛び出してひっくり返った。アランとフェリシアは水をかぶってびしょ濡れだ。

「すみません、フェリシア様。お怪我は……」
「ふふふ。」
「フェリシア様?」
「あぁ、楽しい。アラン様、私幸せですわ。」
「うっ……」

 フェリシアの笑顔の破壊力ときたら半端ではない。アランはあまりの苦しさに胸を押さえた。アランが苦しんでいる間に、フェリシアはジョウロを持って水を汲みに行ってしまった。