フェリシアの結婚はただの公爵令嬢の結婚とは違う。フェリシアは見た人の心を奪ってしまうほどの美貌の持ち主だった。

 騎士団の稽古を見学するときに変装をする理由は、騎士たちが見学しているフェリシアを見つめてしまって稽古にならなかったからだ。フェリシアが城のパーティーに参加すれば、フェリシアに挨拶をしたいという男性が長蛇の列を作ってしまう。仕方なくマリウスがエスコートするようにしたが、それでも注目を浴びてしまうことは変わらず、公務に支障が出るようになったため、今ではパーティーを開くことができない。

 マリウスが隣にいればある程度の抑止にはなるが、四六時中付き添うことはできない。城の外へ出ればフェリシアのところへは男性たちが殺到することは当たり前で、馬車に乗っていれば必ず追いかけられるし、屋敷に男性が押し掛けることは日常的な光景だった。中には強硬手段に出る者もいて、フェリシアの父である公爵は頭を悩ませていた。

 これらの問題はフェリシアが結婚すれば解決すると考え、公爵はフェリシアを無理やり結婚させようとした。その相手は身分の高い貴族であったが、騎士ではなかった。

 すると、怒ったフェリシアは屋敷を飛び出して行方をくらましてしまった。公爵令嬢が行方不明になったと大騒ぎになり、使用人たちが総出で探しても見つからなかった。

 フェリシアの家出騒ぎはマリウスの耳に届き、マリウスはすぐさま騎士団第1部隊長のヴィクトールにフェリシアの捜索を命じた。ヴィクトールが出動すると、ものの数秒でフェリシアは見つかったのだが、公爵夫妻はこの事件でひどく憔悴した。

 それ以来、公爵はフェリシアを無理やり結婚させるようなことはしなくなった。地道に1人ずつフェリシアに紹介することを繰り返しているが、いまだに結婚相手となる人物は見つかっていない。

 結婚して特定の男性を見つけなければ、フェリシアは危険な生活を続けなければならない。それに、これ以上世の男性が惑わされてしまうのは困る。マリウスはフェリシアの結婚相手を見つける方法はないかと思考を巡らせた。