「あいつがフェリシアの護衛なのか?」
「想像よりずっと素敵な方じゃない。」

 アランは馬車を颯爽と降りてフェリシアをエスコートしている。郊外出身だとか入隊して間もないとかいう情報を忘れてしまうほど、アランのエスコートはスマートでまるで王子のようだった。

 ソフィアは嬉しそうに微笑むフェリシアを見て心が暖かくなった。これでフェリシアは落ち着くだろう。アランのような好青年が来てくれて本当に良かった。

「あなた、良かったわね。フェリシアがとても嬉しそうだわ。」

 ロベルトに言ったのに言葉が返って来ない。不思議に思ってロベルトを見ると、ロベルトは口を開けたまま固まっていた。

「あなた?……あなた、大丈夫?」
「あ、あぁ……大丈夫だ。あぁ、驚いた。あんなに素晴らしい青年だとは思わなかった。ははは。」

 ロベルトの様子が気になって、ソフィアがどうしたのかと聞こうとすると、フェリシアがアランを連れてやってきた。

「お父様、お母様、ただいま戻りました。今日から私の護衛をしてくださるアラン様よ。」
「アラン=ノワールと申します。よろしくお願い致します。」
「よく来てくださいましたね。娘がこんなに静かに帰宅したのは初めてです。お転婆な娘ですが、どうぞよろしくお願い致します。」

 ソフィアがアランに頭を下げると、アランは恐縮しながらソフィアに頭を下げた。

「はははは!アラン君、よく来てくれたね。待っていたよ!さすが大会の優勝者となる騎士は違う!私は君のような青年に会えるのをずっと待っていたんだ。ははは!」

 ロベルトは、人が良いという言葉では片づけてはいけないほど見た目で簡単に騙されてしまうのだった。そのせいでこれまで様々な問題はあったが、今回マリウスはそんなロベルトの特性を逆手に取った。

 アランの経歴はロベルトに受け入れられるものではないとわかっていたからこそ、わざわざ貴族らしい服装を着せて送り出した。ロベルトはマリウスの策略にまんまとはまってしまった。

「さぁ、アラン君、盃を交わそう!ははは!」
「公爵様、私は……」
「酒が飲めないのか?安心しなさい、色々あるからね。さぁ、行こう!」

 ロベルトはアランの肩に腕をまわしてそのまま強引に連れて行ってしまった。ロベルトが屋敷に入ると使用人たちも一斉に屋敷へ戻っていく。フェリシアたちが乗ってきた馬車は静かに屋敷を出て、残されたのはフェリシアとソフィア、マリーの3人だけになった。