公爵邸に馬車が入って来る音がすると、使用人たちは慌ただしく動き始めた。まるで騎士団のようにてきぱきと配置について馬車の様子を伺っている。

 フェリシアが馬車で戻って来る時はやたらとついて来る人間が多い。そう言った人物を追い払い続けてきた屋敷の使用人たちは、訓練を受けたわけでもないのに、騎士のように機敏な動きができるようになっていた。

 フェリシアの父ロベルトと母のソフィアは、玄関の前で馬車の到着を待っていた。護衛のいない馬車は初めて見た。しかも馬車を追いかけて来る人の姿もない。馬車が停車するとロベルトは御者に声をかけた。

「誰もついて来ていないのか?」
「はい。こんなことは初めてで驚いております。城を出てからこの馬車に近づく者はおりませんでした。」

 フェリシアに護衛がついただけで、こんなにも効果があるとは思わなかった。

「護衛がいてよかったですわね。」
「……そうだな。」

 フェリシアの護衛となる人物が新人騎士であることには納得できないが、フェリシアが無事に帰宅できるようになったことは、素直に喜ばしいことだ。

「あなた、降りてもらっていいわよね?」
「あぁ、大丈夫だ。」

 いつもは馬車の周りの安全が確保されるまでフェリシアは馬車の中で待機させている。今日は誰もいないのだからこのまま降りても問題ない。御者が馬車の扉が開くと、降りてきたのはマリウスによって強引に着飾られたアランだった。