マリウスは足元がおぼつかない様子のフェリシアを支えて貴賓席を出た。あんなに堂々と歩いていたのに今は自分が大会にでも出たのかと思うほど息が切れている。

「フェリシア、少し休む?」
「だ、大丈夫……ですわ……ここにいたら……胸が苦しくて……」
「そうだね。今日は早く帰った方がいい。」

 マリウスはフェリシアを支えたまま馬車へ向かった。

「体調が整ってからでいい。来られる時に……」
「明日参りますわ!」

 食い気味に言われてマリウスは面食らったが、元気があるなら自力で歩いてくれと思った。

「わかった。明日の朝来てね。言っておく。」
「わわわわかりました。どどどどうしましょう、どのような服装で来たら……」
「普通のにして。今日みたいな大仰なのはやめて。」
「普通……普通ですわね。わかりましたわ、お兄様。」

 フェリシアが馬車に近づくといつものように護衛を担当する騎士の姿が見えて、フェリシアは途端に姿勢を正した。

「お兄様、1つだけお伝えしたいことがございます。」

 フェリシアに手招きされてマリウスはフェリシアに耳を寄せた。

「もし第1部隊に行きたいと仰ったら、そのようにして差し上げてください。私の護衛は大丈夫ですから。」
「うん。わかった。」

 フェリシアが乗り込むとすぐに馬車が動き出した。馬車が見えなくなるまで見守ってからマリウスとサーシャは執務室へ戻って行った。