「そこの、リンゼイ・アシュトン! この私があれほど忠告したと言うのに、殿下に用意して貰ったドレスを着るために、城で部屋まで用意してもらって、特別に支度してもらっていたですって? 信じられない。このっ……ただの平民のくせに! 殿下に近づくなと、あれほど言ってあったでしょう!」

 よっ……良く知ってるー! 私の動きを、もしかして……ずっと調べさせていたの?

 もし、ジョヴァンニのことがそこまで好きなのなら、やるべき事が違うようにも思えるけど……!

 私はずかずかと自分に迫り来るマリアローゼを呆然と見つめながら、何故か動くことは出来なかった。

 完全に、蛇に睨まれた蛙になっていた。後はもう蛇に丸呑みにされるだけってわかっているし、逃げても仕方ないっていう達観した諦めっていうか……怖すぎて動けないっていうか。

 無抵抗のまま、がしっと腕を持たれて、階段へと突き落とされ、落ちゆく私が咄嗟に思ったのは、せっかくレオナルドの誕生祝いに用意した贈り物が台無しになってしまうと言うことだった。

 ……駄目。これを渡して、ようやく、レオナルドに気持ちをわかってもらえるのに!