「まあっ……怖いわ。ヴィクトリア様って、罠に掛けられてしまったの? かわいそう! 誰なのかしら。そんな悪い事を企んでいるのは……」

「よしよし。ミゼル。大丈夫だ。しかし、ヴィクトリアがミゼルに嫌がらせをした事は間違いない。なので、婚約破棄は妥当だろう」

 泣きそうな表情になったミゼルの頭をよしよししつつ、チャールズはナザイレと私を睨みつけた。

「……いえ。少々の嫌がらせで、婚約破棄など……正気ですか。チャールズ殿下。それに、婚約者であるのならば、嫉妬してもおかしくない状況にあると思いますが」

 二人の近い距離を見て誰しも思うはずだ。この二人は恋仲にあると……私も周囲の面々も冷めた目で彼らを見ていた。

「何を言う。僕とミゼルが……こうして距離が近付いたのは、ヴィクトリアと婚約破棄してからだ」

 わかりやすく目を逸らしたチャールズに、ナザイレはくくっとくぐもった笑いを漏らした。

「ですが、公爵令嬢に呪いを掛けた件は詳しく調査する必要があるようです。おい。あの女を地下牢へ」

 ナザイレは後ろに控えていた部下の騎士たちに命令をし、ミゼルを捕える為に彼らは動き出した。