夜会から帰る途中、いつものようにレンブラント様と二人で馬車に向かって歩いていた。

 彼はこれまでと同じように義務感ありありの素っ気ない態度で、その美麗な無表情の上には『100』の数字。

 これよね……これさえなければ、何の憂いもなく婚約者のレンブラント様と結婚して……何も疑問に思わなかったはずなのに……。

 ……ううん。違うわ……何も変わらないままで、本当に良かったの?

 実際のところ、これまでのレンブラント様の冷たい態度は、私にとって都合が良かった。

 だって、常にこうして適度な距離感を持って接してくれているならば、胸が苦しくなってしまうくらい彼のことを考えなくても良いし……もし、レンブラント様からわかりやすく迫られてしまったなら……。

「リディア」

 ……そうよ。こんな風に。

 不意に気がつけばかなり近い距離にあった彼の整った顔を見て、私は咄嗟に反応出来なかった。

 ……だって、これまでにこんな風に迫られる事はなかったし、考え事をしていたせいか、非現実的にさえ見えてしまったのだ。

 あまりにも驚いてしまい何も言えない私に、レンブラント様は顔を顰めていた。

「君は、最近どう考えても様子がおかしい。元気がないし、何かで悩んでいるようだ。僕たちは婚約者同士なのだから、何かあれば話して欲しい」

「そっ……それは、その」

 レンブラント様は元気がない様子を心配してくださっただけで、特に他意はないとはわかっている。

 けれど、なかなか私の頭が回転しない。追いつかない。

 こんなにも彼が近くに居るなんて、今まではないことだったからだ。