「お姉ちゃんっ!一旦落ち着いて」と、ストップをかけた私が一番慌てている。おかしな光景だ。


「私が好きなのは“一途に想ってくれる、素直可愛いイケメン”なの。……水無瀬さんは少し違う、と思います(顔は良いですが)」


ほんとは“全く”違うんだけど、優しさの欠片で“少し”と“思います”を含んで、やんわり言い放ったのが運の尽き。

「しまった」胸中で呟いたときにはもう遅くて。その甘い顔立ちにぴたりとハマる、艶っぽい声が低い音で毒づいた。


———だる。あんたの恋愛事情なんか興味ねえよ

こっ、怖い……。

———やっぱり今日、顔合わせに来て正解でした。世間知らずなお子様だってことが、よくわかったんで

そして、ド正論すぎてぐうの音も出ない。と言うか、態度だけじゃなくて口も悪いんですね。


お花畑な私に呆れている水無瀬さんが、一歩詰め寄る。反射的に後退りすれば、また一歩近づく。

二回繰り返したの。ほらもう、逃げ場がなくなった。

こと、と首を傾ける仕草に視界が奪われて、眉の下まで伸びている前髪から瞳がこぼれる。
冷えきった眼差しに、ぎゅっと目を閉じたのも一瞬のこと。耳の先に触れた息がくすぐったくて、見上げるように視線を水無瀬さんへ移した。


———外出時の送り迎えと、護衛以外については契約してませんけど

あ…私、変なスイッチ押したかもしれない。

「“どうしても”って言うなら、オプションも付けてあげてもいいですよ。お嬢様」


べ!と赤い舌をちらりと覗かせ、アンバーの柔らかな瞳が悪戯に笑みを残した。