「ん。どーぞ」

「あー……ん」

二口目のスコーンをぱくっと頬張った。今度は掌を添えて口を覆う。

彗が満足そうに美麗な顔に笑みを残した。きゅっと結んだ私の唇は綻び、胸の鼓動が駆け足になってく。

……て、あの。ほんのり甘い雰囲気に溶けてる場合じゃない。

契約内容は『外出時の送り迎えと護衛』だけ。こんなことまでしてもらうのは契約外で。

お父さんやおじいちゃんがこの場面を見たら卒倒するに違いない。

千景くんと同じ出禁、どころじゃなくて、クビにされちゃう。


「(それは、やだな)」

お部屋に二人きりもよろしくない。

「ふみさん、落ちるから早く」

「ふぇ。あ、ありがとうございます。
残りは———…ん、甘い」


しゅんとなってるところへ、再びスコーンが運ばれた。「自分で食べます」を言いかけたのに、無表情の圧に負けた私は、心とは裏腹。おずおず彼に近寄り小さく齧る。と、綺麗な指先が伸びて。

私の唇に触れながら、優しくなぞった。彗は、だらしなく付いたジャムを掬い、味見をする。


「なんだ。チョコじゃないのか」

「〜〜っ!」


彗はたまに、私が見たことのない“大人の余裕”な顔を見せつける。

今だって煽るような笑みで私を惑わせた。

してやられました。どう見てもイチゴジャムなのに…っ。私ばっかりドキドキするのはズルい。

彗の胸をぽかぽかと叩いたの。そうすると、仕返しにマフラーぐるぐる巻きにされたんだ。