彼を見上げ、無意識に緩む桃色の唇を結べば、美麗な顔が躊躇う様子もなく、私を追いかけた。

ほら、また距離が近づく。


この雰囲気って…キス、するのかな。


「ふみさん」

「うん、なに?」


上目遣いで聞いた。さっきから“うん”と“はい”の二択を繰り返す単純な返事。

目の前の大好きな人は、柔らかな口調を残し「なに?」と、私を真似て聞き返すの。

お砂糖みたいな甘ったるい声音が、胸の奥へ熱を孕んでいく。

もう、いっぱいいっぱいだ。くるしい。

それから、くす…と口端を持ち上げながら、瞳ごと私を覗き込む彼の仕草が、たまらなく好き……だったりするのです。

蕩けるような甘い夢の続きに身を委ねる。彗だけを見つめる熱に熟れた双眸を、ぎゅと閉じても、キスは落ちてこなくて。


「………?(…あれ?なにもない)」

私からキスしろってこと!?

緊張で強張る体が子猫のように震え始めた。

ふみにはとってもハードルが高い。
心の準備……まだ、できてないよ…?いいのかな。

尋ねる術も持ち合わせてない。キスを待っていた顔を、ゆっくり彗の方へ寄せた。と、唇の先に何かが軽く触れた。


「(こつ?)」

「はい」

「はい……?」


瞬きを一つ。それから、首を横へ小さく倒す。


「あーん」

「…………」

「ほら、口開けてください」


視界に入るのは、手袋を外した彗が持つスコーンだった。