「酔いは覚めましたか?お嬢様」

「昨日はご迷惑をおかけしました」


痛い記憶を突かれた私は、小さく彗に謝った。
ぶさいくな戯れ言は告げず、ぽわ…と熱くなる胸の内で、続きを零す。

酔っ払いふみには、もうなりません。今ここに誓います。


「まだ、顔が赤いのは気のせい?」


と、ドアに背凭れをしている彼が、気怠げな表情を残して首を横に倒した。

素直に頷くはずが、唇を薄く開いたまま、肩の力が抜けてしまった。

いつもならば無愛想で片付けるであろう言葉や仕草に、柔らかさが含まれている。
棘のある輪郭を丸く縁取ったみたい。


わ、わ…っ!彗が優しい。


さらりと斜め下に向かって、乱れることなく綺麗に流れる前髪から、アンバーの瞳が私を映す。


「二日酔いのお酒が残ってるかも…しれません」

「ふーん。それは困りましたね」


心のまんなかを見透かされているようだった。

ふ…と、小さなかんばせにおさまる、形の良い唇に淡い笑みをすいた彼は、微かに色気を纏っている。


「ふみさん」

「はい」

「(昨日の威勢はどこにいったんだよ)」

「あの…彗?」

「それ、食べたら行きましょうか」


彼が視線で眺める“それ”は、お姉ちゃんが買って来たスコーンのことだ。

甘そうなジャム瓶も数種類並べられており《お裾分けです。二日酔いは大丈夫?お酒はほどほどにね!》と、優しいメモが添えられてある。

「……うん」一つ返事で答えた。
彗が「食べられる?」と、敬語を外して尋ねるので、私はも一度「うん…?」と、語尾を緩めながら、静かに頷いたの。

すると、彼がソファに腰掛け、体がぐっと近づいた。