甘さを孕む静かな熱から逃げたくて、顔ごとそらして千景くんを遠ざけた。…のに、追いかけられて、顎先を指で摘まれる。


「わかった?」


ほら、また試すみたいに、ワザとらしく視線をぶつけられた。

ほんの一瞬の隙に、千景くんを眺める。美麗な顔を瞳に閉じ込めたのは数秒のことで、気づかれないうちに、視線を外した。


「(もう、いいかな)」


言葉は使わずに、表情だけで伝えれば、千景くんは小さな笑みを浮かべて、結んだ唇の端を綻ばせたの。

私の顔、おかしかった……?

おずおずと尋ねようとした先で、肩口に頭が乗っかり、首が横に倒れて私の方へ落ちる。

あ。千景くんのほっぺ赤い。もしかしなくても、風邪引いてるんじゃないかな。

心配で、私も真似して首を傾げたら「やっと捕まえた」と、熱っぽい眼差しを向けられたんだ。


「奪うけど、いい?」

———奪うけど、いい?

心のまんなかで、も一度繰り返した。


“奪う”ってなにを?私から千景くんにあげられるもの、なにもないよ。

『ド一軍、塩対応、怖い、口が悪い』のハッピーセットを詰め合わせた千景くんは、本日不在らしくて、私を困らせる天才と化している。


「〜〜っ、あんまり見ないで…ほしいです」

「無理だわ。ふみのこと見るの好きだし」

「ちっ、千景くん!?どうしたの?(悪魔が小悪魔に……!)」


昨日に引き続き、弱々な千景くんを前に、一人であたふたしてしまうのです。