うん。千景くんに間違いない。

「どうして?」「いつもと変わんない態度だ」
「ケンカしたのは夢だったの?」なんて、千景くんには聞けない質問が、ぽわぽわ浮かんでは泡のように消えてく。

ただ、一つだけ分かるのは部屋に入れた理由。

弟の(げん)が手伝ったのかもしれない。

源は千景くんに懐いていて、幼なじみの私より仲が良い。高校生になってから雰囲気も千景くんに似てきた。

そんな弟の成長に関して、お姉ちゃんは「最近の源は千景くんみたいね」と、柔和に笑うのだけれど、私は内心複雑なのだ。

俯いているとスマホの通知音で呼び出された。送り主は源である。

《ちーちゃんって、もういんの?》

《いますけど、》と、文句を垂れるように送信。既読が付けば、すぐに続きが届く。

《上手くいったんだ。やるじゃん》

「…………(やっぱり)」


『やるじゃん』に込められた意味は、敢えて聞き返さないことにします。


「む……ぅ」

「ふみ。こっち見ろ」


返事を一旦止めた矢先、ぐいと両手で、顔を持ち上げられた。行き場のない視線が、ゆらりと千景くんへ合わさっていく。
肌を包む指先は凍えるように冷たくて、思わず目を瞑ってしまった。


「ひゃっ、」

「“千景くんごめんなさい”は?」

「千景くんごめんなさい」

「ん。いーよ」


圧力に負けて復唱された、気持ちのない『ごめんなさい』で、千景くんに許されてしまいました。