愛おしい言葉の温度も、その先の溶けるようなキスも、魔法みたいな一夜だった。

甘噛みされたところ、ほんのちょっとだけ痛いかも。

今日、これから迎えに来てくれるはずの彼に、意地悪でも仕向けようと考えてたの。

だけど、ふみの中にいる、もう一人のふみが
『可愛い意地悪で困らせるのはどう?』って聞いてくれたから、さっきまで考えてた意地悪は保留にしようかな。

と、瞼を閉じた裏側で、淡い夜の曖昧な記憶が浮かび上がり、ぷしゅう…と空気が抜けた私はシーツに倒れ込んだ。


「お迎えまだかなあ(……顔、熱いや)」


胸の音、ずっと煩いの。彗に会えば少しは静かになる?

———まだ、他に欲しい?

もっと煩くなったら、どうすればいいんだろう。


項垂れているところへ「お嬢様、入ってよろしいでしょうか」扉を叩く向こう側で朗らかな声に呼ばれた。

はっとした私は、体を起こして乱れた髪も整えたの。準備万端、軽い咳払いで冷静を保った。

「はーい。どうぞ、です」と柔らい返事をする。

一旦、幸せな気持ちは隣に置きました。彼のことで頭をいっぱいにしている暇はないのです。