「さっきの間抜け面はどこにいったんですか?もしかして酔ったフリ?」

「フリなんかじゃないもん」


あからさまな嘘を吐く。語尾がか弱く消えていくと同時に、淡々とした低い音が重なった。


「そんなわけないか。いくらふみさんでも、人を欺くなんて器用なこと、できませんよね」


こくんと一つ首を縦に振った。

高まる熱が冷めない。いつの間にか腕を掴んでいた指先が自由になっていて、彼が全て見透かすように瞳を覗き込んだの。

きっと今の私、耳の裏側まで真っ赤になってると思うんだ。


「“好き”って言ったの伝わった?」

「はい」

「……大好きです、よ?」


私の心、全部見せたから彗の心も全部見せてほしい———


「はい。知ってますよ」


ゆっくりと、彼のかんばせが私に近づき、シトラスの香りが肌に染み付く。唇の横を優しく甘噛みされた。


「……っ」

「あっま。俺、クビになりますかね」

「また雇ってあげるから、心配しなくていーよ」

「一回はクビにさせるんだ。その気にさせておいて、悪い人だな」