彗は物怖じせず「褒め言葉ですね、ありがとうございます」とあしらった。続きが始まるんじゃないかと、心配しているところへ、千景くんの瞳が私を鋭く捕まえる。


「……っ」


あっ。……知ってる。
憂を含んだ冷たい眼差しの矛先が、じわじわと私に向けられる感覚。意地悪を伝う口の動きから逃げるように、ぎゅうっと目を瞑る。

低くて尖った声が鼓膜に触れた。


「さっさと辞めさせろや」


容赦ない言葉に体が強張り「私、ひとつもケガなんてしてない」と、心の真ん中に閉まっていた気持ちが、独り言のように転がったの。
瞬間、ぷつんと緊張の糸が解けたみたいに、息を整える暇もなく言葉を滑らせた。


「彗のこと悪く言わないでよ」

「……………」

「千景くんに何言われたって、クビになんてしないから!」


千景くんの目を見てはっきりと言った。

自分の声が想像していたより透き通る音をしていたことも、思いきり感情をぶつけると心が熱を纏うことも、初めて知ったんだ。

眉根すら動かさず固まってる千景くんを置いて、彗の腕を引っ張り店外に出ると、勢いのまま車に乗り込んだ。

酔っ払いふみが起こした、千景くんへの初めての反論。

ぱたん…と倒れ込んだ後、事の重大さに気づく。瞬きを二回、三回。ほんの少しだけ怒りがおさまり冷静を取り戻した。


つ、ついに言っちゃった。90%は千景くんが悪いもん……たけど、残り10%はキツく当たった私が悪い。