「私はへーき」


やんわりと肯定した。千景くんは頑なに唇を結び、視線だけで私を眺めて言葉を吐き捨てる。


「つまんな」


びくっと肩が上擦り、無意識に彗のスーツを引っ張ってしまった。揺らいだ視線が、気を抜けば下に向いてしまう。

お姉ちゃんが持っていた調査書通り、彗は申し分ないくらい優秀で、それ故に恨みを持っている人がいることを、この1ヶ月近くで私は知ってしまったのだ。

最初の事件は先月中旬。
彗が以前、雇用されていた大手企業の元社員の人に誘拐されてしまった。

聞くところによると、彗のせいで横領がバレてクビになったんだとか。

「身代金も要求する」なんて息巻かれて「もう助からないんじゃないかな」って、怖い思いをしたけれど、瞬きひとつの間に彗が来てくれたのです。

擦り傷もなく私は保護され、もちろん犯人は彗によりコテンパンに……。

2週間前だって、連れ去られそうになった一歩手前で、助けてくれた。

『二度あることは三度ある』

私に何があっても、助けに来てくれることをわかってるから、心配も不安もない。守ってくれるって信じてるんだ。


「ふみ、甘やかしてんのな」

「うるさ。お子様はもう寝る時間ですよ。どうぞお帰りください」

「その態度、気に食わねえわ」