琉那(るな)、今日も食べないつもり?」

 向かいのデスクに座る同期の杉浦(すぎうら)(あん)から声を掛けられた。

「うん」
「体壊すよ」
「大丈夫だよ、デスクワークだし。ダイエットできて節約もできるなんて一石二鳥だよ」

 自分に言い聞かせるように、琉那は必要以上に明るく振る舞った。

「もう、何言ってんの! はい、あーん」

 そう言われ、フォークに刺さった卵焼きが顔の前に近付くと、園田(そのだ)琉那は反射的に口を開けていた。

「ん~っ、おいひぃ。杏ちゃん、本当に料理上手だよね。昨日の肉巻きも美味しかった~」
「ほら、お腹空いてんじゃん! やっぱり明日から琉那のお弁当も作ってきてあげるよ」
「ううん、いいの! 本当に大丈夫だから」

 琉那がそう言っても、結局いつも杏に弁当を分けてもらうことになる。
 ここ一ヶ月程、杏が弁当を作ってきているのは、琉那が昼休みにランチに出かけるのをやめたからだった。琉那もしばらくは弁当を作ってきていたのだが、ここ数日はそれも止めていた。
 実際のところ、琉那はダイエットなんてしていなかった。そんなことも、杏にはお見通しなのだろう。

「空腹のあんたを前に、一人で食べてらんないのよ! お弁当なんて、一つ作るのも二つ作るのも一緒だから」

 杏はそう言ったが、同棲中の彼氏の分も作っていることを知っていた。それも合わせると、三つも作ることになる。完全に杏を巻き込んでしまっている、と琉那は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 そもそもこんなことになったのは、あの出会いがあったからだ。