私はなぜか笑いを堪えることができずに、声をあげて笑う。すると、今度はハリット王子がやってきた。
「ラローシャ」
彼が来ても私は笑いを止めることができない。それどころか、笑いすぎてお腹を抱えてしまう。
「ラローシャ。悲しいんだね」
私はハリット王子の思わぬ言葉に、さらに笑った。
「悲しい!? これのどこが悲しいと言うのです? 実に愉快! 私の居場所はやはり戦場であると思い知らされたのですから」
「ラローシャ……さぁ、涙を拭いて」
私は彼が言うまで自分が溢れるほどの涙を流していることに気がつかなかった。
「笑いすぎて涙が……」
「ほら、また強がっているよ。ラローシャ。私にはわかる。君の背中はいつも寂しいと嘆いているのが。その寂しさを戦場で紛らわしているんだろう?」
「私は独りでいいのです」
「アルディーア公爵のこと、本当は好きだったんだろう? 幼い頃からの婚約をずっと破棄しなかったんだ。幼い頃から彼との婚約を望んでいたんだよね?」
なぜ。
なぜこの男には全てお見通しなのだろう。
「……私に色恋は必要ない」
「傷つきたくないからそう言うんだ」
「殿下は意地悪な人ですね」
私はバルコニーの手すりを握りながら、まっすぐに見つめてくるハリット王子を見る。
「あなたには、婚約者が現れます。陛下がそうおっしゃっていました」
「……!」
「殿下。私のことなど忘れて、どうかお幸せに」
私はそう告げて、バルコニーから出ようとした。
だがハリット王子が私の腕を掴むと、私の唇を奪う。一瞬のことで初めは何が起きたのかわからなかった。
ハリット王子が私にキスをした?