「私に色恋など必要ありません」
「長いこと片想いをしていたんだ。簡単には諦めないよ」
「諦めてください。こんな私などを好きになっては国の恥です」
「恥だって!? ダニタルス騎士団と言えばこの国一優れた騎士団だと言われている! その騎士団のトップに立つ君のどこが恥だと言うんだ?」
私は顔をしかめて、立ち上がり深くお辞儀をした。
「私には、戦場が似合っておりますので。殿下、ご勘弁を」
執事が応接間に入り、陛下の準備が整ったことを告げる。
「それではハリット王子。私はこの辺で失礼します」
愛など、恋などくだらない。
またあいつの言葉が頭を過る。
「君には、僕は必要ないみたいだ」
本当に勝手な男だ。
それから私は陛下に謁見し、褒美をいただいた。
「陛下。ありがたき幸せ」
「ラローシャよ。今度私の誕生を祝うパーティーが行われるのだが」
「護衛ですか? それでしたらもちろん引き受けさせていただ」
「いやいや、今回は君を招待したいと思っている。いつも剣を振り回していては男が逃げていくぞ。たまには羽を伸ばして舞踏会を楽しむといい。君のことだから男装して参加するだろうと思ったから、ハリットに頼んでドレスを用意させてもらったぞ」
「は、はぁ……」
陛下の招待を断るわけにはいかない。
私ははいと返事をした。
「ハリットは君に夢中みたいだ。全く困った息子だよ」
「本当に困っています」
陛下は率直に返す私をははっと笑った。
「ハリットには舞踏会の時に、婚約者を紹介しようと思っている。まだあいつには言わないでおくれよ?」
「そうですか。それはそれは」
「ではまた、舞踏会の時に会おう。ラローシャ」
私は一礼をして、広間から出ていく。
ハリット王子に婚約者ができるのであれば、私に近づいてくることはもうあるまい。
帰り際にハリット王子が待ち伏せしていた。