既に陛下は今回の防衛戦の結果をご存知だろうが、直に陛下にお伝えしたい。私はユーストリー城に入り、煌びやかな装飾を施した廊下を歩く。
まただ。
またやつがやってきた。
向こう側から、ユーストリー国の皇太子がやってくる。彼は私が来るとわかると必ず出迎えにきては話をしたがるのだ。
「ラローシャ! 会いたかったよ」
「ハリット殿下。本日は陛下にご用がありますので、この辺で」
「まだ話もしてないじゃないか! それに父上は会議で忙しい。待っている間、私が相手をしよう」
「は、はぁ……」
殿下は微笑みながら少し屈んで手を差し伸べる。
一国の王子だ。合わせておくしかないだろう。
私はその手に自分の手を置くと、彼は嬉しそうに応接間に案内した。
「あのオークの大軍を簡単に制圧するとは。さすがはユーストリー国の守護神と言われたラローシャだ」
「この国のためですから」
出されたお茶をゆっくりと飲む。
ハリット王子は私が飲んでいるところをじっと眺めていた。
「私の顔に何かついていますか? 殿下」
「いいや。ただ見たくて見てるだけだよ。君はいつ見ても素敵だ」
「ご冗談を」
「冗談で言うものか! 私は他の令嬢にだってこんなこと言わないぞ」
「殿下」
私は飲んでいたカップを下ろして、殿下を見る。
「私は血生臭い騎士団長です。他の令嬢たちや貴婦人たちは私を見て軽蔑するものもいる。そんな私に素敵などと言う言葉は似合いません」
「ラローシャ。この際だから言う」
ハリット王子は椅子から立ち上がると、私に近づいて跪いた。
「私はそなたが好きだ。アルディーア公爵が婚約破棄したと言ったときは飛び上がって喜んだよ。ようやく、君に告白することができるってね」
「申し訳ありません、殿下」
私は伏し目がちに答える。