渋谷駅で待っていると黒龍のメンバーのマサルがバイクで迎えに来た。晴はマサルのバイクの後ろに乗り、黒龍が溜まり場にしている倉庫に向かう。

 暗くなっていく空を眺めながら晴は考えた。蒼汰がクスリをやるなんて絶対にありえない。

蒼汰の父親は薬物中毒になって精神病院に入院している。離婚して蒼汰は母親に引き取られたが、たまに父親に会いに病院に行っている。

しかし父親はもう蒼汰の顔も、彼が自分の息子であることも認識できない状態だそうだ。誰よりも違法薬物を憎む蒼汰がクスリに手を出すとは思えない。

 バイクが倉庫の前に停まり、晴は躊躇なく倉庫に入る。嗅ぎ慣れた懐かしい匂いだ。
コンクリート剥き出しの灰色の室内にいたのは、黒龍現リーダーの洸と、晴に連絡してきたNo.3の拓、そして黒龍創設者で初代リーダーの氷室龍牙《ひむろ りゅうが》。

『龍牙さん、お久しぶりです』
『おう、晴。拓が呼んじまったみてぇだな』

 龍牙の仕立てのいいスーツの胸元に光る弁護士バッジ。昔は金髪だった頭も今は落ち着いた黒髪になり、スーツを着こなす彼はすっかり弁護士の風格だ。

(ヤンキー座りで煙草吸ってなければの話だけどな。その服でヤンキー座りはミスマッチっすよ、龍牙さーん……)

『蒼汰が捕まったって言うのは……』
『まだ捕まったわけじゃねぇよ。参考人として事情を聞かれてるだけだ。容疑が晴れればすぐに出てこれる』
『参考人ってどうして蒼汰が』
『晴。とにかく座れ。順を追って説明する』

 金髪に全身黒で統一した服装の洸がパイプ椅子を指差して座れと促す。洸は晴のひとつ年上、黒龍の掟通りに定時制高校を卒業した洸はれっきとした大学一年生、しかも美大生だ。

(洸も相変わらず美大生には見えねぇ)

 晴は洸の隣のパイプ椅子に、龍牙はソファーに座り直し、拓とマサル、他のメンバーは部屋に散らばって立っている。洸が話の口火を切った。

『4月くらいから関東のいくつかのグループの間でクスリが出回るようになってさ、薬物所持や使用で逮捕者も出てる。もちろん黒龍にはクスリご法度の掟があるから俺達はクスリに手を出してないぜ』
『じゃあなんで蒼汰とクスリが関係してくる? もし掟がなくても蒼汰は絶対クスリはやらねぇよ』
『龍牙さんとも話していたんだが、蒼汰はハメられたかもしれない』

洸が龍牙と目を合わせた。晴はまだ話が見えず困惑する。

『ハメられた?』
『新宿にエスケープってクラブがあって、そのクラブはクスリの売人が取引でよく使うらしい。蒼汰はサツのガサ入れの日にそこに居合わせちまったんだ』

 先月に賭け事件の協力を黒龍に頼んだ際、蒼汰は最近クラブに遊びに行っていると言っていた。