杉澤学院高校、3年6組。このクラスに在籍する緒方晴の席を囲んで木村隼人と高園悠真は頭を悩ませていた。

『常々、お前はバカだと思っていたがここまでバカだとは思わなかった』

 悠真が溜息をついた。彼の視界に入るのは晴の机に並ぶ期末テストの答案用紙。
数学28点、物理25点、古文20点、英語14点。

『晴にはテスト前に賭け事件の一件で動いてもらったからな。勉強時間がとれなかったのは仕方ない』

数学の答案用紙を持ち上げてまた悠真は頭を抱える。晴は面目なくうなだれた。

 杉澤学院高校の生徒達が行ったテストの賭け事件。賭けに関与した不良グループ、アルファルドとレグルス、シルバージャガーの情報を集めるために晴は以前所属していた暴走族グループ黒龍《コクリュウ》を動かした。

黒龍の仲間の協力のおかげでアルファルドとレグルスを解散させ、事件の黒幕を追い詰めたのは期末テストが始まる直前のことだ。

 忙しさにかまけて勉強を怠った晴は、見ての通り赤点が四教科。

赤点の者は追試で70点以上とらなければ夏休みの補習が待っている。高校生活最後の夏休みを満喫する気でいた晴には夏休みが補習で潰れる事態は死活問題だ。

『晴がうちの学校入れたのってある意味すげーよな』
『だよな! 俺も奇跡だと思う』

 隼人の呟きに晴は大いに同意した。東京都の偏差値トップレベルの杉澤学院高校の入試をダメ元で受けたら受かってしまった、そんなミラクル過ぎるミラクルもこの世にはある。

『それでもなんで授業出てるのに赤点なんだよ……』

 また悠真が溜息をついた。そんな悠真と隼人は今回の期末テストの順位も当たり前な顔で同率学年1位だった。