顔を上げた私を木村先輩が優しく見下ろしていた。

『ははっ。大げさだなぁ。俺と悠真はもうすぐ生徒会の任期が終わる。これからは何かあっても助けてやれねぇけど、もう俺達の助けがなくても大丈夫だよな?』
「はい。私を守ってあげられるのは私しかいませんから」
『よろしい。……俺に告白する勇気があったんだから、増田さんは弱虫じゃない。強いよ』

木村先輩が耳元でコソッと囁いた。私は放心して彼を見上げる。

「先輩……気付いていたんですか?」
『最初はわからなかった。そういえば増田奈緒って名前どっかで聞いたと思って、思い出したよ』

 嗚呼……去年私が木村先輩に告白したこと思い出しちゃったのね。恥ずかしい……。
木村先輩の記憶力の良さに脱帽です。

『間違っても遊び人のチャラい男には捕まるなよ? 増田さんだけを想ってくれる奴がきっといるから』
『それ隼人が言えることか?』
『隼人に一番似合わないセリフだな』
『亮と晴に同感』
『お前らうるせぇぞ。俺がせっかく良いこと言ってるのにぶち壊すな』

渡辺先輩、緒方先輩、高園先輩が口々に木村先輩をいじるから木村先輩がふて腐れてしまった。拗ねてる木村先輩はなんか可愛い。

『じゃあな』

 木村先輩が私に手を振って背を向ける。私はその背に向けて一礼した。
杉澤のトップ4が肩を並べて歩いていく後ろ姿をいつまでも目で追っていた。

 私の学校には最強で最高の男がいる。女たらしと有名なその人は確かに女性関係は派手だけど、とても頭が良くて行動的で、怒るとちょっと怖くて、温かくて優しい。

だから私は思う。もしこの人が将来、本当にただひとりの女性を愛する時が来たのならその女性は幸せ者だ。
木村隼人が本気で愛する唯一の女性。もしもそんな人が現れるなら、その人はどんな女性なのかな。

        *

 翌週の月曜日。期末テストを受けることなく桃子ちゃんは退学した。
亜矢と美織ちゃんは私に嫌がらせしていた犯人が桃子ちゃんだと知って怒っていた。更衣室に置いてあった私のスカートを切ったのもたぶん桃子ちゃんだ。

でも私は怒りよりも悲しみの方が強かった。木村先輩が話してくれた桃子ちゃんの家庭の事情が彼女を苦しめているのなら、学校を退学した桃子ちゃんはこれからどうするんだろう。

こんな風に桃子ちゃんを心配する私はやっぱりお人好しだって、亜矢に呆れられてしまった。

 一抹の不安と寂しさを抱えて、杉澤学院高校の期末テストが始まった。テストが終わればいよいよ夏休み。
今年はどんな夏になるのかな。



story2.END
→story3.Summer vacation 2002 に続く