私を見た木村先輩が身を屈めて苦笑した。

『派手にやられたなぁ』
「はい……派手にやられちゃいました」

私も苦笑いするしかない。漫画みたいに見事に頭から水をかけられて、バケツをぶつけられそうになって情けなくて恥ずかしい。

『怪我は?』
「えっと……大丈夫です」
『怪我がないならよかった。とりあえずこれで顔拭け』

木村先輩が自分のハンカチを差し出したけど、先輩のハンカチを使うなんて恐れ多い!

「いえ! ハンカチなら私持ってますか……ら……あ……」

 体操着のポケットから取り出したハンカチはびしょ濡れだった。それはそうだ。全身に水を被ったのだ。ハンカチも濡れていて当然。
びしょ濡れのハンカチを見た木村先輩が吹き出して笑った。

『ほら。いいからこれ使え』
「すいません……」

再び恥ずかしくなって顔が熱い。木村先輩のハンカチを使って濡れた顔を拭った。
ハンカチから先輩の香りがする……ってうっとりしちゃった私は変態かもしれない。

 木村先輩は携帯を耳に当てて誰かと話をしている。

『今どこ? ……あー……じゃあ保健室でタオル何枚か借りて中庭まで持ってきて。できればバスタオルで。……理由は来ればわかる。あと先生にシャワー室使えるよう頼んでくれ。緊急事態だから。おう、任せた。……すぐに悠真がタオル持って来るからちょっと待っててな』

優しく笑いかけてくれる木村先輩にキュンとする。かっこよすぎです先輩っ!

「先輩はどうしてここに?」
『さっきの女達をつけてきた』
「つけてきたって……」

 木村先輩は花壇のレンガブロックに腰かけた。地面に投げ出された先輩の脚が長いなぁと、ついつい魅とれてしまう。

『あの賭け事件のグループの中で処分の軽い奴らは今日から登校してきてるんだ。生徒会で要注意人物と判断した奴は、生徒会と風紀委員がしばらく監視しようってことになってさ。で、俺があの三人組を見張ってたらバケツに水入れだして増田さんの悪口言ってるしこれは嫌な予感しかしねぇからつけてきた。予感的中でアイツら増田さんに水ぶっかけて言いたい放題』

ずぶ濡れの私を見た先輩は申し訳なさそうに形の整った眉を下げた。

『本当は水ぶっかけられる前に俺が出ていこうかと思ったんだけど、でもアイツらに言い返せたな』
「はい。先輩が自分を守れるのは自分だけって言ってくれたから……勇気が出て……」
『よく頑張ったな』

涙が零れるのは木村先輩の優しさが身に沁みるから。

 木村先輩がモテる理由がわかる。先輩はただ顔がいいからモテるんじゃない。

木村先輩はとっても温かくて優しくて人の心を思いやる人。
だからこの人の周りには自然と人が集まってくるんだ。