バケツがガンッと当たる音が……あれ? 身体が痛くない……? 地面に転がるバケツが視界に入った。

『はい、そこまで』

 男の人の声にハッとして視線を上げると、木村先輩がショートヘアーの子の腕を掴んでいた。

『俺はなるべく女の子には手荒なことしたくないんだよね。でも君達には容赦しなくてもいいかもな』

ショートヘアーの子の腕を掴んだまま木村先輩が他の二人の子を目で威嚇する。
増田奈緒の実況によると今の木村先輩はとてつもなく恐ろしい顔をしています……。

「あ……その……」

 先輩に腕を掴まれているショートヘアーの子がガクガクと肩を震わせている。巻き髪と黒髪ロングの二人も殺気立った木村先輩が怖くて言葉が出ない様子。

実を言うと私もめちゃくちゃ今の木村先輩が怖いです。

『2年4組吉井麻耶さん、5組の山本由加里さん、石本実花さん。君達は停学じゃ物足りないようだな。自分達が増田さんに何をしたかわかってるのか?』

 私も知らない彼女達のクラスと名前を淀みなく呼んでいく木村先輩は雰囲気は怖いのに、正義のヒーローみたいでかっこいい。

「すみません……」

今にも泣き出しそうな顔で巻き髪の子が先輩に謝った。でも木村先輩は怒りの表情を崩さない。

『君達が謝らないといけないのは俺じゃないだろ』

私を見る木村先輩と思い切り目が合って、こんなびしょ濡れな姿を見られて恥ずかしくて私は目をそらした。

「……ごめんなさい」

 黒髪ロングの子がまず先に私に頭を下げた。続いて巻き髪の子も、木村先輩の拘束が解けたショートヘアーの子も私に謝ってくる。

謝っても許されないこともある。あるけど……
しゃがみこんだまま、彼女達を見上げた。

「もう……こんなことしないって約束してくれるならそれでいいです」
「約束します……」

 巻き髪の子が小さく呟いた。彼女は今にも泣きそうだ。彼女が泣きたい理由はわかる気がする。

たぶん巻き髪の子は木村先輩のことが好きなんだ。好きな人にあんなに怖い顔で睨まれたら泣きたくなるよね。

『今回のことは先生には黙っておくが、もし次に問題行動が発覚すればその時は停学よりも重い処分が下ることになるからそのつもりでいろ』

木村先輩が冷めた声で彼女達に告げる。三人の女の子は逃げるようにその場を立ち去った。