三人が希望通りの学校に通えたなら麻衣子だけが高校からは二人と別の学校に行くことになる。それは、少し寂しい気もする。

『隼人ってさ、普段は俺は勉強してませーんって感じで毎日サッカーと女遊びしてるくせにあれでムカつくくらいに頭いいからな。隼人なら杉澤は問題なく受かるだろうよ』
「ねー。ほんと悔しいけど隼人は成績いいのよね。あんな遊んでばかりいていつ勉強してるのか。頭の構造どうなってるのよ」

隼人のテストの成績はいつも学年トップ。小学生の頃からずっとそうだ。

『顔はいい、頭もいい、運動神経もいい、あれだけ揃ってればモテるのも当然か。性格は歪んでるけど』
「隼人がモテるのが信じられない。あんな悪魔の申し子みたいな男のどこがいいのよ」

隣を歩く渡辺がトンッ……とボールをバウンドさせた。

『とか言って、何年も隼人に片想いしてるのは誰だよ?』

わざとおどけた調子で言う渡辺に向けて麻衣子は頬を膨らませた。

「いつの話してるのよ。隼人のことなんてとっくに終わってますっ!」
『へぇー』
「何よその“へぇー”は」
『ただの感嘆詞』

 渡辺の言い方は素っ気ない。たまに彼は麻衣子に対して素っ気ない態度をとる。
最近は隼人だけではなく渡辺のことまでわからなくなった。中学生の男の子の思考回路は理解できない。

 隼人の家に伝言を伝えて、渡辺とは家の前で別れた。ようやく自分の家の玄関に入った麻衣子を出迎えたのは食欲をそそるカレーの匂い。
どうやら我が家のメニューがカレーだったらしい。
自室に入って制服も脱がずにベッドに横になった。

「隼人のことなんかもう好きじゃないもん。好きじゃない……好きじゃない……」

 あんな意地悪で人を召使いのように使うインテリ野郎なんか、もう好きじゃない。好きじゃない。
何度も呪文のように繰り返して麻衣子は自分を騙してきた。

 目を閉じると隼人の憎たらしく笑った顔が浮かんでくる。

「もう……バカァ……」

赤くなった顔を枕に伏せた。

(隼人のバカ。アホ。悪の帝王。鬼。悪魔)

「やっぱり大好きみたい……」