翌日から私の生活に変化が訪れる。

「……あれ? ……ない」

 体育の授業を終えて次の古文の授業の準備をしようと机の中を覗いた私は古文の教科書がなくなっていることに気付いた。朝は確かにあった。

カバンの中にもロッカーにもない。仕方なく別のクラスの友達に教科書を借りて事なきを得たけど……どうして?

「増田奈緒さんいますか?」

 帰りのHRの直前に見知らぬ女子生徒が私のクラスを訪問した。上履きの色を見ると三年生の先輩だ。

「これ、増田さんのだよね?」

先輩は私の名前が書かれた古文の教科書を持っていた。

「はい。私のです。ありがとうございます。あの、教科書どこにありました?」
「裏庭のゴミ箱に入れてあったの。掃除の時に見つけて……」

 先輩が言いにくそうに耳打ちしてきた。裏庭のゴミ箱……?
教室に置いてあった教科書がそんな場所で見つかる理由はひとつしかない。
誰かが私の机から教科書を持ち去って裏庭のゴミ箱に捨てたのだ。

「増田さんって、この前のテストで学年2位になった子だよね?」
「はい」
「……気を付けてね」

最後に先輩はそう言った。どういう意味か聞き返そうとしたがすぐに先輩は廊下を歩いていってしまって、「気を付けて」の意味がわからないまま不安だけが膨らんだ。

 それからもたびたび私の持ち物が紛失する出来事は続いた。教科書、ノート、体操着、英和辞典……いつも学校のどこかで見つかって、見つけた人が届けてくれたり自分で見つけたり、さらに今日はびりびりに破られた私のノートが見つかった。

 昼休み、学校内のカフェテリアで私は亜矢と、この二年生で友達になった美織ちゃんと桃子ちゃんと四人で昼食を過ごしていた。

「なんで奈緒が嫌がらせされなくちゃいけないの?」
「そうだよ。もう先生に言った方がいいよ」

嫌がらせが続いていることに亜矢と美織ちゃんはかなり怒っている。終始考え込んでいた桃子ちゃんがハッとした顔で私を見た。

「もしかしたらなんだけど、奈緒ちゃんがこの前のテストで2位になったからじゃない?」

 私達のリーダー的存在の桃子ちゃんはクラスの学級委員をしているしっかり者。成績も良く、今回のテストでは総合順位で10位に入っていた。

「でも2位になったからって嫌がらせするもの? 奈緒の実力なのに」
「でも奈緒ちゃんが2位になったことで嫉妬したり妬む人はいると思う」

 桃子ちゃんの指摘を聞いて思い当たることはあった。嫌がらせは中間テストの順位が貼り出された翌日から始まった。