二年生の終わりにもなると役員じゃない亮と晴も生徒会室に出入りするようになり、生徒会室が彼らの新たな溜まり場となっていた。

『おい悠真! 何なんだこの仕事の量は! 何なんだよこの書類の山は!』

 生徒会室のソファーに寝転んで漫画を読んでいた亮の耳に隼人の叫び声が聞こえてくる。隼人の机には山積みの書類があり、彼はその書類を前にして悠真をねめつけていた。

『何ってそれが副会長の仕事だからね』

悠真は隼人と違ってクールな表情で机に向かって黙々と作業をこなしている。

『多過ぎだろ! 確実に俺の方がお前より仕事が多いぞ』
『だから隼人が会長にすれば? って言ったんだ。副会長は雑用だらけだけど会長は上がってきた書類にハンコ押すだけだから』
『俺が中学の時の副会長は暇そうにしてたぜ!』
『それは会長だった隼人が仕事の割り振りがヘタクソだったからだろ。下の人間を上手く使えば上は楽できるんだよ』

悠真はまたあの不敵な笑みを見せた。

『お前……最初からこうなること見越して俺に会長薦めた後で自分が会長やるって言ったんだろ?』

 一触即発の空気に亮は今すぐここから逃げ出したくなった。
不敵な微笑みの悠真とキレた隼人のいる空間から一刻も早く出たい……救いを求めて亮が向かいにいる晴を見る。
晴はソファーに寝そべったまま片耳だけイヤホンを外していた。

『いいから早く書類書いて俺のとこに持ってきてよ? 副会長』

キレたオーラを漂わす隼人に臆せず余裕の笑みで悠真は返す。一瞬の不気味な静寂。

(ヤバいヤバいヤバい、まじにここから出たい! こいつら二人とも敵に回したくないっ!!)

 こんな時こそ陽気な晴がおちゃらけたムードを出してくれることを期待して亮はまた晴を見た。……が。晴は何故かニヤニヤ笑っている。

(晴! そこ笑うとこかっ? 悠真を止めてくれよ!)

静寂の数秒後に隼人の溜息が漏れた。

『わかったよ。やればいいんだろ。会長様』

 隼人が負けた。晴もこの展開になることを読んでいたようで、悠真と隼人が作業を再開すると晴もまたイヤホンを両耳につけて音楽の世界に浸り始めた。

 悠真の計画は亮にもわかっている。サッカーを失くした今の隼人には何か打ち込めるものが必要だ。

たとえそれが生徒会の仕事でも、一時の気休め程度でサッカーの代わりにはならなくても、何もないよりはマシだから。

 イケメン、秀才、スポーツ万能の三拍子揃いのたまにブラックな一面を見せる悠真とひたすら明るい晴のおかげで少しずつ隼人が立ち直ってきた。亮は悠真と晴に感謝していた。

 季節はもう春。来月からは新学期、隼人達は高校三年生になる。

生徒会長になった悠真、副会長の隼人、亮と晴は彼らの知らないところで起きていた陰謀にまだ気付かないまま、楽しい学園生活を送っていた。

 杉澤学院高校に全校生徒を巻き込んだ大事件が起きることになるのは、ここから数ヶ月後の話。


story1 END
→story2.私の百花繚乱物語 に続く