芸能界の、それも競争激しい音楽業界の世界は想像もつかなかった。

『でもemperorのKEIの息子だと知られていない方が好都合なんだ。デビューして親の七光りだと言われたくないからな』

口調はあくまでも静かな悠真の言葉には力強い響きがあった。

『デビュー?』
『俺達の夢はメジャーデビューして全国ツアーで日本全国回ってツアーラストは武道館でライブをすること!』

悠真の言葉を晴が引き継ぐ。

 メジャーデビュー、全国ツアー、武道館ライブ……スケールの大きさに圧倒されると共に、隼人は鳥肌が立った。彼らの音楽ならその夢が現実になる日が来るのかもしれない。
ただの夢物語でなく、本当に彼らは夢を叶えてしまいそうな、そんな説得力が彼らの演奏にはあった。

『夢か……。何かいいな、そういうの。お前らには夢があって羨ましいよ』
『夢は見るものじゃなく築き上げるものだ。すぐに叶えられる夢は夢じゃない』

 悠真は窓際に佇み、四階のこの部屋から見える新宿の夜景を眺めている。彼は言葉を続けた。

『夢ってのは追っては逃げ、追っては逃げの繰り返し。挫折して崩れて破れて……。一度や二度ボロボロに砕け散るのは当たり前だ。それでも残る想い、簡単に諦められない想い、それが夢だ』
『ひとつ挫折したくらいでへこたれてたら叶えられるものも叶わない。築き上げたものがもし崩れて砕けてもまたイチから築いていけばいいんだ』

 そうだ。二人の言うとおりだ。夢はまた築けばいい。夢は見るものじゃなくて築き上げるもの。
こんな簡単なことに気付かずにたった一度の挫折で人生悲観して腐るなんて、バカだ。
腐ってる暇なんか、ないんだ。