家の近くの公園の前を通った時、公園のバスケコートから規則的なボールの音が聞こえてきた。
ボールが宙を舞い、シュートが決まる。麻衣子はバスケコートの入り口に立ち、シュートを決めた背の高い少年に向けて拍手を送った。

 麻衣子のもうひとりの幼なじみ、渡辺亮がバスケットボール片手にこちらに走ってくる。

「亮はバスケ、隼人はサッカーかぁ」
『なんだよ急に』

バスケットボールを器用に操る渡辺は麻衣子のしんみりした呟きに首を傾げた。

「別に。でも中学入ってからはみんなバラバラになっちゃったなぁーって思っただけ」
『そりゃあ男と女がいつまでも一緒ってわけにはいかないだろ。麻衣子だって吹奏楽部じゃん』
「そうだよね。そうなんだけど。やっぱり……どんどんバラバラになっていくものだよね」

 空を見上げると茜色の空が次第に紫がかっていた。自然と溜息が漏れる。
あんなに一緒にいたのに、いつの間にかみんなバラバラ。年齢を重ねるにつれて、離れていく。

『隼人と何かあった?』
「何もない。だけど隼人って私のこと伝言板とでも思ってるんじゃないかってムカついてきてさ」

ベンチに座る麻衣子は渡辺がドリブルやシュートの練習をする光景を眺めた。彼はボールを動かしながら麻衣子の話し相手をしてくれている。

『また伝言頼まれた?』
「今日遅くなるから夕御飯いらないって伝言。自分で家に電話すればいいのにいつも私を使うんだから。女の子達の前で私のこと呼びつけて」
『またかよ。隼人もわかってるならちょっとは気遣えばいいんだけどな。隼人が麻衣子と話してるだけで麻衣子は他の女子から睨まれるのに』
「女子のやっかみは小学生からずっとだからいい加減慣れた」
『人気者の幼なじみ持つとお互い大変だな』

空中に投げたボールをキャッチした渡辺はそのままドリブルをしてシュートを決めた。ボールが地面に落ちて転がる。

『帰るか。麻衣子も隼人の家に伝言伝えるんだろ?』
「うん」