晴がドラムの縁をスティックで叩いて演奏開始のカウントを刻む。ドラムの低音域のリズムにギターの切ない音色が重なってこの空間を支配した。

悠真が詞を歌い、ところどころに入る晴のコーラスが歌に深みを増す。ボーカルは悠真の弟がやっていると聞いたが、悠真も晴も歌が上手かった。

普段の口調は落ち着き払っている悠真の歌声は甘く伸びやか、陽気な笑い声が印象深い晴のコーラスは力強い。

 そしてギターとドラム。音楽には無知、無学に近い隼人でも二人の演奏が桁違いの腕だとわかる。正直に言えばもっと気楽に聴ける、高校生の軽音楽部レベルの演奏だと思っていた隼人は度肝を抜かれた。

 これは気楽に聴けるものではない。高校生が遊びでバンドを組んでいるレベルではない。悠真のギターも晴のドラムも高校生のレベルを越えている。

 二人の息はぴったりで二人でひとつの音を奏でている。その音になんだか胸の奥が熱くなり、隼人は心が洗われていく気分だった。
いつの間にか隼人の目に涙が滲んでいた。

 旋律の激しさが加速する。ドラムを叩く晴の身体は上下左右に揺れ、ギターを奏でる悠真の指は弦の上を滑らかに踊る。空気が震え、ギターの余韻を残して演奏が終わった。

隼人は敬意と賛辞の拍手を二人に送る。

『覚悟足りなかったみたいだ。音楽聴いて泣いたのは初めてだよ』
『ありがとな。俺達も誰かに聴いてもらえるのは嬉しいんだ。な、悠真』
『ああ。俺達のバンド名のLARMEはフランス語で涙の意味。観客が自然と泣ける音楽を届けたいって想いが込められている』

 晴と悠真が立ち上がって一礼する。隼人はまた大きな拍手を送った。

『名前の通り泣ける音楽だよ。最高だった』
『木村も最高の観客だぜ。知ってるか? 音楽で泣ける人間は心の綺麗な人間なんだよ』

隼人の隣に座った晴が彼の肩を叩く。

『心の綺麗な人間か。本当にそうならいいけどな』
『……さっきの曲、コピーじゃなくて俺達のオリジナルなんだ。作曲したのは悠真』

 自嘲の込められた隼人の表情の変化に気付きながらも晴はあえて違う話題に変えた。