昇降口で上履きに履き替えて保健室に繋がる廊下に出た。

『さっきの奴らお前のこと知ってたみたいだな。コクリュウがどうとか言ってたけど』
『あー……うん。杉澤の裏門で喧嘩やってるって黒龍の仲間から連絡来て、もしかしたら敵対グループの奴らかもしれないからすっ飛んでったけど違ったんだな。でも結果的に木村を助けられたから良かった』

 誰も通らない静かな廊下に響く二人分の足音と声。黒龍、敵対グループ、赤髪の仲間が晴を名指ししていった黒龍のNo.3……ここまで揃えば答えは明白だった。

『黒龍って、“族”だろ?』

晴はどうしてわかったんだと言いたげな顔をしていたが、彼はまた白い歯を見せて微笑した。

『そうそう。一般的に言えば黒龍は暴走族ってことになるね。で、俺は黒龍の元メンバーだった』
『辞めたのか?』
『半年前に抜けた。族以外に本気になれるものが出来たんだ』
『本気になれるもの?』

その先を言うことを晴は迷っていた。迷いの時間内に到着した保健室の鍵を晴は確認する。

『まだ閉まってないじゃーん。おーい。いくちゃーん』

 晴は“いくちゃん”と言って遠慮なく扉を開けた。いくちゃんが誰なのか隼人には想像もつかない。

「まーたあんたか」

 保健室にいる養護教諭が晴を見て呆れた顔で笑っている。
またと言うからには晴は保健室をたびたび利用しているようだ。病弱には見えないから喧嘩の手当てで利用しているのだろう。

杉澤高校に通って2年になる隼人は初めて保健室を訪れた。養護教諭のいくちゃんとも初対面だ。

『いくちゃーん。今日は俺じゃなくてコイツだよ。手当て頼むよ』

 晴は隼人を回転式の丸椅子に座らせた。いくちゃんは隼人を見て溜息をつく。

『まったく。あんた達はこりないねぇ。はいはい、服脱いでねー』

養護教諭のいくちゃんに言われて隼人はシャツを脱いだ。腹部には痛々しい青アザができていた。

『なぁいくちゃん、麦茶飲んでいい?』
「一杯五百円ね」

 隼人の腹部の状態を見て湿布を選ぶいくちゃんが返事をする。麦茶で一杯五百円は高すぎると隼人は冷静に考えていた。