ここは裏門を出てすぐの場所。走って学校に逃げ込んだとしても他の生徒を巻き込んでしまう。
裏門付近は普段から人通りも少なく、校舎からも遠い。学校に残っている生徒や教師が隼人達に気付くことはまずない。

 腹は痛いし口の中も血の味がした。

『杉澤の帝王も大したことねぇなぁ。優等生くんは勉強は出来ても喧嘩はできないみたいですねぇー』

 赤髪と仲間達の見下した笑いに苛ついた。
ひとりで喧嘩する度胸もないくせに。赤髪ひとりなら余裕で倒してる。

杉澤の帝王も女子生徒が勝手に言っているだけだ。学校の地位なんて隼人には些末なことだ。

『そろそろフィナーレだ』

赤髪が仲間から金属バッドを受け取ったのを見て、隼人は苦笑いした。絶体絶命とはこういう時に使う言葉だ。

(バッドは野球で使うものだろ。人を殴る道具じゃねぇぞ)

『じゃあな。杉澤の帝王さん』

赤髪が笑ってバッドを振り下ろした。隼人は反射的に目を閉じて左腕で頭を庇った。
 ──数秒の時が過ぎても頭にも身体にも何の痛みも衝撃もない。

『お前らさー、ひとりに対してこの人数は卑怯じゃねぇーの? それともひとりじゃ弱すぎて戦えないって?』

 この場に似合わない陽気な声と金属バッドが地面に落ちる音が頭上から聞こえた。目を開けた隼人の前には短髪の黒髪に赤や青のカラフルなメッシュを入れた男が立っている。

隼人と同じ杉澤学院の制服を着た黒髪の男の顔に見覚えがあった。
あの男は確か……一年の時に……。