緑色のフェンス越しに自分よりも背の高い男の子と向かい合う。

「なに?」
『今日コーチと夕飯食べてくから帰り遅くなるって母さんに言っておいて』
「そんなの自分で電話して言いなよ」
『お前がいるんだから電話する必要ないだろ?』

木村隼人は憎らしいくらいに爽やかな顔で笑っていた。

(隼人はずるいよ。そうやって笑えばなんでも許されると思ってる)

『じゃ、頼むな』

 集合の合図の笛が鳴って隼人は麻衣子の意見も聞かずに颯爽とグラウンドの中央まで走っていく。彼がいなくなると同時に背後からひそひそと話す声がした。

「加藤さんて隼人くんの彼女じゃないよね?」
「隼人くんは幼なじみって言ってるけど」
「ただ家が近いってだけであんなに仲良くなれるの? 怪しくない?」

彼女じゃないし、怪しくもない! 後ろを向いてそう叫んでやりたい気持ちを抑えて麻衣子は真理と二人で女子達の視線から逃げるように学校を出た。

「じゃ、日曜日に駅前集合ね」
「うん」

 真理とは日曜日に遊ぶ約束をしている。明日が休みの金曜日の帰り道はどこか解放感に満ちていた。
分かれ道で真理と別れて、麻衣子はひとりで夕暮れに染まる道を歩く。

 この道をひとりで歩いて帰るようになったのはいつからだろう?
小学生の頃は行きも帰りもいつも一緒だった。
いつも、三人並んで歩いていた。