意図的にか偶然か、隼人と京介を残して他のメンバーはざわつく店内のどこかに消えていた。

『イタリア、いつ行くんだ?』

 隼人は自販機でジュースを買う京介の背中に話しかけた。隼人達の前にはジュースやアイスの自販機が並んでいるだけで、パーティションで仕切られた向こう側からは店内を流れるヒップホップの音楽と人の声が漏れ聞こえている。

『来週の土曜』
『成田? 羽田?』
『羽田。見送り来てくれるのか?』
『仕方ないから行ってやる。お前には見送りに来てくれる彼女もいねぇしな』
『うわっ! 何その上から目線』

京介が自販機で買ったジュースの一本を隼人に向かって投げた。隼人はジュースを受け取り、ベンチに座る。京介も隼人の隣に座った。

『しばらく日本ともお別れだな。納豆が食べられないのは辛い』

真面目な顔で何を言うかと思えばこれだ。京介の天然発言に隼人は苦笑いで返す。

『納豆食べたきゃ、イタリア人にオクラ乗っけたピザでも作ってもらえよ。同じネバネバだろ』
『オクラはダメ。納豆ピザか納豆パスタにする。あ、まずイタリアに納豆売ってないか……?』
『バカか。あんなネバネバしたもんよく食えるよな』
『納豆の悪口言うな。隼人はホントに納豆嫌いだな』

納豆の話は正直どうでもよかった。こんな会話がしたかったんじゃない。

『……京介。わかってると思うけど俺に遠慮なんかするなよ。そんなことしたら殴る』

 ふざけた口調から切り替えると京介も笑っていた口元を引き締めた。

『ああ』
『胸張って行ってこい。誰にも負けないプレーヤーになって戻ってこいよ』
『隼人。俺さ、お前がチームメイトでライバルで本当によかった』

京介が隼人に片手を差し出す。隼人はその手を握った。

『俺もだ。京介は俺の最高の相棒で最強のライバルだからな』
『見送りの餞別《せんべつ》は納豆でよろしく』
『バーカ』

 二人は顔を見合わせて笑い、少し涙ぐむ京介につられて隼人も少し涙が滲んだ。別れの挨拶はまた見送りの時に。

(頑張れよ……京介……)